世界でいちばん、大キライ。
失礼ながら、若々しい見た目と軟派なイメージにやはりどこか半信半疑だったのかもしれない、と名刺を目の当たりにした桃花は胸の内でそう漏らした。

そんなことを知る由もないジョシュアは、相変わらずニコニコとしながら言う。

「オレのこととか、突然過ぎて思考追いつかないデショ? きっと。だから、ちょっと時間をあげたいな、と思ったんだよね」
「あ……」

ジョシュアに言われて再確認した。
『シアトルの話は現実のことなんだ』と。

念願の夢がこんなふうに叶いそうになっているなんて、と改めて桃花は驚愕する。同時に、ふたつ返事で『行きます』と即答できない自分に戸惑いを感じていた。
その理由は、突如現れたジョシュアが突然誘ってきたから、というだけではないことに桃花自身はうすうす勘付いていて……。

咄嗟に、ジョシュアの真っ直ぐなガラスのような瞳から視線を逸らす。
その仕草にジョシュアは一瞬目を細める。そして、桃花の華奢な両肩に手を添えて、そっと引き寄せた。

声も発せないまま、桃花はジョシュアのされるがまま。
刹那、桃花の前髪にジョシュアはそっと唇を当てた。
その柔らかな感触を額に感じると、吃驚して逸らしていた顔を上げてしまう。

ジョシュアの手は未だに桃花の肩に置かれたまま。
そんな至近距離で視線を交錯させながら、桃花は赤い顔をして触れられた額に右手を当てた。

(な、なに? 今の)

バクバクと騒ぎだす心臓。
軽くパニック状態の思考で辿り着いたのは、『これは挨拶のようなもの』。
別れ際とか、そういう挨拶でよく外国では交わされるであろうキスのひとつだ、と桃花は自分に言い聞かせながらも動けずにいた。

ただ、背の高いジョシュアを見開いた目で見上げると、ふわりと微笑んだ顔が映し出されるだけで。

そのとき、ジャリッとした足音が耳に届き、桃花はハッと我に返る。
何気なく音のした、ジョシュアの後方へと目線を移すと……。
< 109 / 214 >

この作品をシェア

pagetop