世界でいちばん、大キライ。
「……ひっ、久志さん……!」

目の前のジョシュアの存在を忘れてしまうくらいに、桃花の意識はその奥に立つ久志だけに囚われる。

今日のすれ違いの詳しい内容はわからないままだ。
だけど、やはりそれよりも、顔を見れば駆け寄りたい衝動に駆られるのが一番で……。

ジョシュアを横切るように、桃花は一歩踏み出す。桃花の視線はもちろん久志一直線だが、久志が見ているのは自分ではなく、隣の人物。
それに気づいた桃花は、慌てふためくように口を開くが……。

「これ、渡そうと思って」

桃花の言葉よりも先に、淡々とした久志の言葉が飛んでくる。
閉口したままの桃花は、咄嗟に差し出された手に受け皿を作るように両手で広げた。
その手のひらにシャラッとわずかな重みが落ちてきて、一度視線を落としてチャームを確認すると、すぐに久志を見上げた。

「今日は本当に申し訳なかった。……じゃあ。取り込み中、悪い」

一度も目を合わせてくれなかった久志は、再び意味深な視線をジョシュアに向けると、身を翻して背を向ける。
それは、久志自身、無意識なもので、特段威嚇するためや嫌味といった類でそうしたわけではない。

そんな久志のちょっとした行動や変化を桃花は本能で感じ取ると、長い足ですでに十数メートル先を歩く後姿を追うように声をあげていた。

「まっ、待ってくださいっ……!」

桃花はそのままジョシュアのことを一度も振り向くことなく、黒いジャケットの広い背中だけを追いかける。
足を止めることをしない久志と、懸命に追い掛ける桃花の姿を傍観するように見つめていたジョシュアは、目を細めてぽつりと呟く。

「そんなに急がなくてもいいかと思ってたんだけど……そうも言っていられなさそうだ」

ジョシュアはふたりの姿が角を曲がり見えなくなってもややしばらくその場に立ってそう呟いた。
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