世界でいちばん、大キライ。
ジョシュアの独り言など当然届くこともなく。
桃花は、足を止めることなく歩く久志の背中を走って追いかける。

「久志さんっ!」

角を曲がり、ジョシュアの視界から外れたあたりで久志はぴたりと足を止めた。
軽く息が上がっていた桃花は、肩で呼吸をしながら息を整えつつ、久志の頭を見上げた。

「久志さん……あの、今のはその……深い意味とかなくて」

別に何かを問い質されたわけでもない。
まして、具体的に、先程ジョシュアにされた額へのキスに対して指摘されてるわけでもない。
けれど、去り際の久志の目が頭から離れなくて、弁明したくなってしまう。

「あのっ、なんか……」
(私、何を言おうとしてるの? あの人がシアトルに呼んでくれたって、そんなこと言ってどうする気?)

言葉が続かなくなってしまった桃花は、ほんの少し俯くようにして唇を軽く噛む。
その桃花の姿を振り向くこともせずに、久志は冷たく言い放つ。

「あー……ホント、悪かった。ジャマして」

大人げなくそんなことを口に出してしまった久志は、頭の隅で後悔していても、感情のコントロールが効かないのか、当然謝ることなど出来ずに閉口した。

「そんなんじゃ、ないです」

ぽつりと言い返す桃花もまた、ジョシュアの件や、果たされなかった久志との約束、そして、水野のことを思い出しては感情がセーブできなくなっていた。
それによって、冷静な思考でいたらこんな感情的な物言いなどしないのに、というようなことまで並べ立ててしまう。

「久志さんこそ。今日、都合悪いだなんて知らなくて。私、ご迷惑かけたみたいですね。仰ってくれればよかったのに」
「あれは……!」

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