世界でいちばん、大キライ。
自分のために仕事をしてお金を貯めて、自分のために勉強して……。『母子家庭だから』と言われたり思われたりするのが嫌で、そんなふうに人よりも努力してきた。
そう遡って考えると、桃花のある種の根性と、負けず嫌いで逞しい性格は前々からかもしれない。

「ただ考えるだけで何もしないで諦めるって、基本、私はしたくないんです」

一度決めたら、最後まで貫き通す。
やらないで後悔するよりは、やって後悔した方がいいという典型的な前向き思考。

それに反して久志はまったく反対の考え方の人間だった。

「それは、若さと、今の環境下で抱えているものがそこまで多くないからなんじゃないの。成功する確信もないのにむやみに踏み出すのはどうかと思うし、オレは出来ない」

大人な考え方と言えばそうなのかもしれない。
けれど、桃花にとってはただの保守的な思考だとしか捉えられなくて。

物理的な距離は、互いのつま先間が2メートル程度空いたくらいのもの。
しかし、桃花にはその距離が数十メートルにも及ぶ感覚になるほど、心の距離を痛感させられる。

その距離がもどかしくて、焦れったくて。
一気に彼に近づきたくて、桃花は残りの距離を埋めるように久志の胸に飛び込んだ。

「それでも……っ、やっぱり、私は久志さんが」

忘れられなかった久志の匂いを感じながら、厚みのある胸に額を押し付け手を回す。
いくら転ぶときは前のめりという桃花でも、口にすることが怖いことだってある。

だから、久志の顔が見えない態勢を利用して、思い切って抱えていた気持ちを零した。
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