世界でいちばん、大キライ。
桃花の想いに後ろ髪を引かれる思いでソッジョルノを後にした麻美は、ノロノロとした歩調でマンションへと向かう。

久志が同居を始めたときに、自分の仕事部屋を麻美に譲った。
マンションに着いた麻美は、その今は自分のものとなっている六畳部屋に籠もる。

畳んでおいてある布団に頬を付けるように座り込むと、未だに自分のことのようにモヤモヤとした気持ちでいることに改めて気づく。
枕に顔を沈ませて目を伏せると、久志の顔が浮かんでくる。

(ヒサ兄……)

自分がまだまだ小さかった頃の記憶。
今よりもずっとずっと背の差があって、小柄な父と比べて大きな久志は、麻美の目にはどこか別のところからきた生物とでも思っていた。

初めこそ、びくびくと母の後ろで窺うように久志を盗み見ていた記憶。
ニコニコもしなければ、ほかの大人のようなあやすような言葉や態度も特に出すこともせず。

けれど、小学校低学年の時のちょっとした出来事で久志への感情がガラリと変わった。
仕事が忙しい麻美の両親は、学校行事の出席率が低い。学校から帰っても、誰も家にはいない。そのため、鍵を持ち歩き、ひとりで放課後を過ごす。

そんな麻美を、クラスの男子がからかっていた時期があった。
その頃から、同じ年齢の子どもよりも大人びていた麻美は、それに対して相手にもしていなかった。

でも、全く傷ついてなかったわけではない。
聞き流すことは出来るけれど、それを忘れることまでは出来ずにいた。

なにか直接的暴力などを受けたわけではないし、ただの一過性の遊びに過ぎない。
ある日の下校中も、後ろを歩くクラスメイトがからかうと、麻美は振り返ることもせずに歩き続けていた。

その時だ。
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