世界でいちばん、大キライ。
思わず全力で断ってしまった桃花は、ハッとして口を覆うと気まずい顔をした。

「この前渡したナンバー、入れてくれた?」
「え……? あ、ま、まだ……すみません」
「いや。じゃ、今入れて」
「えっ?」

ジョシュアの視線で、おずおずとメールしたまま手に持っていた携帯を操作した。カバンに入れたままの名刺を探り当てて取り出すと、未だに無言の圧力で押してくる。
緊張する手でジョシュアの元番号を登録すると、桃花は顔を上げた。

「あの、入れました」
「うん。じゃあ、そのナンバーにすぐコールできるようにしながら帰るといいよ。すぐ駆けつけてあげるから」

ジョシュアの言うことに言葉を失って呆然と見つめていると、ポン、と桃花の頭に手を置く。そして、最後はまた元の爽やかな笑顔を残し、頬に軽いキスをして去って行った。

「はぁ……」

左頬を押さえながら、肩の力が抜けた桃花はため息を吐いた。
頭を垂れた桃花は、自分の手に握っている携帯に視線を落とす。

(……メール、見てくれたかな)

グッと携帯を握るだけで、画面を確認するまでの勇気がすぐにはでない。
ただ、目を閉じ、繰り返し呼吸をする。

そうして何度目かの息を吐いた後に、再び足を前に踏み出した。
数十分歩き、自宅アパートに着く。その後、気にしていた携帯電話は一度も鳴ることなく、長い夜が更けていった。


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