世界でいちばん、大キライ。
水野が視線を上げて、パーテーションの境目に立つモノトーン調の服装の若い男を見た。
コンビニのビニール袋をぶら下げてきた男は、ふたりの視線に気づく

「綾瀬くん、お疲れ様です」
「お疲れ様ス。あの、曽我部さん、昨日からずっとやってるあのデバッグ、行き詰ってるんですけど……」

何度か名前の挙がったことのある綾瀬。
彼はこのチーム内の一番後輩だが、久志は仕事の覚えが早い綾瀬に期待している節があった。

普段交わす会話はほとんど業務内容。
たまに仕事以外のことを話しているのは他のメンバーで、その近くにただいるだけということが多いふたりはそんな共通点からか、どこかお互いに意識している部分がある。

今もまさにそうだが、傍から見たら愛想のない後輩だ。
けれど、久志はそういうことを気にするようなタイプではないし、彼が〝そういう〟人間だとなんとなく理解している。

「昨日からずっとやってんの?」
「……はぁ。家でも一応」
「じゃあ、ちょっと寝ろ」
「は、はぁ?」

能面のような綾瀬ですら、久志の前では目を剥き素っ頓狂な声を上げる。
そんな様子を、水野は滅多に見ることがないから目を丸くしてふたりを見守っていた。

「綾瀬(おまえ)が出来ないようなモンじゃなかったはずだ。意外にコレ、いいんだよ。夢ん中で掴めたりするから、そうしたらすぐ起きて忘れる前にメモれ」
「……曽我部さんて、変ですよね」
「それはバカにしてんのか?」

数秒言葉を失ったのち、綾瀬は小さな溜め息と共にそう漏らした。

「いえ。逆です。いつまで俺の上司でいてくれんのかなって最近思います」
「なんだよ。言っとくけど、定年はまだまだ先だからな?」
「そうじゃなくて。よく聞くじゃないですか。海外赴任の件。曽我部さんの〝事情〟が落ち着いたら、迷わず行くのかなって」
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