世界でいちばん、大キライ。
いつも言葉数が少ない後輩の綾瀬なりに、やはり久志は特別だった。
今の発言は相当わかりづらいが、表現ベタな彼が精一杯の思いを伝えたというとこだろう。

それを感覚で汲み取っている久志もまた、どこか嬉しいような気持ちになりながら、けれどそれを表情に出すことなく渋い顔で答える。

「……どうかな。現状(いま)で手いっぱいで、そこまで考えたことねーや」

久志は顔を上げず、頬杖をついてパソコンを見たまま。

「そーですか……じゃ、俺、残りの時間寝ます」
「おー」

そうして綾瀬は自席へと戻って行った。
その背中を見送ったのは、久志ではなく水野。

「綾瀬くん、このチームの中でいちばん曽我部さんのこと慕ってますよね」
「……そうかぁ?」

素っ気ない声を出しつつ、キリのいいところで久志がちょうど手を止めた。
すると、水野が少し間を置いて、同スペースで寝入ろうとしている綾瀬に聞こえないような声で切り出す。

「……あの。この間は突然すみませんでした」
「ああ、いや……。忘れ物は見っかった?」
「はい。……なんか、あのカフェの若い女の子、店内にいた外人の方となんだかいい感じで……若いっていいですよねぇ」

久志は水野の話を、水野ではなく、自分の手元を見つめたまま聞いていた。
脳裏に浮かぶのは、店内で親しげに桃花と話したり、店先で桃花の髪にキスを落とすジョシュアの姿。

「……ああ。ホント。気楽でいーよなぁ」

どこかでイラつくような感情が渦巻いていた。
それを押し殺そうとしていたが、言葉に棘が出てしまう。

久志はそんな言葉に自分でハッとしたが、水野は特に気に留めてはいなかったようで。
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