世界でいちばん、大キライ。
『大ッキライ!』
脳内で変換するのは桃花の声。
それを払拭させようと、読みかけの新聞に手を伸ばす。
途中まで読み進めていたものが、さっぱり頭に入ってこない。
ただ文字を読み流し、ハッと我に返って少し前から読み直す。
それを数回繰り返したものの、一向に先には進めずに、久志は落ち着かない気持ちでバサッと新聞を畳んだ。
次に手を伸ばせば届く位置にあったリモコンでテレビをつける。
どのチャンネルにしても、今の出来事を忘れさせてくれるほどの番組はやっていなくて、早いペースで次々と画面を切り替えていく。
そんなことをしばらく繰り返した後に、久志は項垂れた。それから大きな両手を合わせると、それを自身の額につける。
その態勢のまま数分いると、、ある時、ふっと顔を上げた。
スッとソファから立ち上がり、時計を見る。
ダラダラとしていた今は、午後9時をとっくに回っていた。
久志はダイニングテーブルの椅子に掛けてあったパーカーを手にして、麻美の部屋へと足を向ける。
小さくコンコンとノックをしても、返事は返ってこない。
そっとドアを引き開けると、その隙間から、自分で簡単に敷いた布団に潜り込んでいるであろう麻美の姿があった。
背を向けている麻美が眠っているのかどうかはわからない。
久志は声を掛けずに静かにドアを閉めると、その足で家を抜け出した。
カチャ、と施錠の音がすると、麻美はゴロンと寝返りをうつ。
「結局行くくせに……判断いつも遅いよ。ヒサ兄のバーカ……」