世界でいちばん、大キライ。
「病み上がりで悪いけど、ちょっと出てきていいか?」

その久志の言葉に、麻美は目を丸くして顔を上げた。
見上げた先にいる久志は、今までとは違う。

何かをごまかすような雰囲気も、迷っているような顔もしていない。
心を決めた、やるべきことが定まったような真っ直ぐな目をしていた。

「大丈夫。熱下がったし、ご飯も食べたし」

背中を押すような気持ちで麻美が言うと、久志は細い目をさらに細めて「ふ」っと笑いを零した。

「悪いな、色々。まだ完全じゃないんだから無理して起きてんなよ。じゃあちょっと行ってくるわ」

ぽん、と頭に久志の大きな手が置かれる。
その重みと温かさで、昔のことが鮮明に蘇る。

大好きな、叔父さん。
だから、この一年はすごく楽しかったし、いい思い出になる。
この先大きくなっていっても、この言葉で表しきれない感情はいつまでも消えることなく。

いちばん好きな人。
だから、幸せそうに笑っていてほしい。

麻美は涙がこみ上げてきそうになるのをグッと堪え、強がりながら久志に言う。

「もし今日がダメだったからって、すぐにあきらめないでよっ。ヒサ兄はいつも頑張ってないんだから、こんなときくらい頑張ってよ」

いつもの麻美に戻ったのがわかるセリフ。
それを聞いて久志は目を大きくすると、失笑して麻美の髪をくしゃりと乱した。

「了解」

短い言葉を最後に残して、久志は振り向くことなく家を出て行った。
まだ残る久志の手の感触を確かめるように、麻美は自分の頭にそっと両手を乗せる。
そのまま俯くと、震える声でぽそっと漏らした。

「がんばれ……」
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