世界でいちばん、大キライ。
(……そう。なにも変わらない)

いつまでも後ろ髪を引かれる思いになってしまうのはまだ手に届く場所に久志がいるから。
遠く離れてしまえば、前を向けるはず。

ソッジョルノについてもなお、まだそんな思考に囚われながら、ジョシュアが開いたドアを潜り抜ける。
「いらっしゃいませ」と出てきた了が、目を丸くした。

「ジョシュ……桃花ちゃん気に入ったのはわかるけど、休みの日まで連れ出してくるなよ」
「好きなコデートに誘うのはフツウでしょ?」

飄々と答えるジョシュアは、いつものようにカウンター席に腰を下ろす。
「はぁ」と力なく溜め息をつく了を見て、桃花は苦笑した。
そんな桃花に、了はがっくりと項垂れるようにしながら謝罪する。

「ごめんね、桃花ちゃん。この間『しっかりしてる』なんてこと言ったけど、俺の気のせいかも」
「あはは、いえ。嫌な思いはしてませんし、私もジョシュアさんのペースに慣れておかないと」
「……そう言ってくれると救われるよ」

やれやれといった様子で答えた了が、ジョシュアの待つカウンターへと踵を返した時に、「あ」と一声漏らした。
桃花が首を軽く傾げて了を見ると、くるりと再び桃花を向く。

そして、予想もしないことを耳にした。

「そういえばさっき、あのいつものお客さんきたよ」
「え?」

了の言う『お客さん』は、あまりに抽象的すぎてはっきりとはわからない。
しかし、桃花の心臓は大きく音を立て、一瞬で体中が熱くなる。

ドクドクと心音が耳のそばで聞こえるような錯覚。立っている感覚もなくなって、息をするのも忘れてしまいそうになる。

「背の高い……金曜?だったかな。毎週来てくれてる男の人」
< 162 / 214 >

この作品をシェア

pagetop