世界でいちばん、大キライ。
「だったら、どうして簡単に『行け』だなんて言えるんですかっ……」
「――簡単かよ」

トン、と背後の塀に、桃花を追い詰め、唸るような声でそう漏らす。
握った手を塀に置かれると、桃花は久志から逃げることも出来ない。

いつかの日。
清水と偶然鉢合わせしてしまって路地裏に引き込まれた時のことを思い出す。
あの時も、すごく近くに感じた。けれど、今はその比じゃない。

額がぶつかり合いそうなほど、近距離にある久志の顔をバクバクと心臓をならして見つめる。
すると、スッと久志の頭が落ちてきて、桃花の肩に寄り掛かった。

「んなわけねぇだろ」

小さな声。
そのくぐもった苦しげな声は、表情を見なくても久志の気持ちが伝わってきた気がして……。

「……『行くな』って言ってよ……」

桃花は藍色の空に微かに光る星をを仰ぐようにしながら呟いた。
それを受けた久志は、その態勢のまま、ぽつりと答える。

「一緒にいたい……とは感じてる」

確かに聞こえた久志の言葉に、桃花は力んでいた肩の力が抜けていく。

「でも、それよりも行ってほしい。夢、追いかけてるアンタがいいって思ってるから」


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