世界でいちばん、大キライ。
ゆっくりと顔を上げて同じ目線まで来たところで止まると、覗き込むようにしながら優しい声色で久志が言う。
真面目な顔つきの中に強い気持ちを感じた気がして、桃花は顔を真っ赤にして口を尖らせた。

「ホント……ズルイ。私に選択権ないじゃないですか」
「仕方ないだろ」

じろりと上目づかいで睨む目は潤んでいる。
赤い顔と大きく揺るがせる瞳の桃花の顔を掬い上げるように、久志は自身の大きな両手を添えた。

クイッとさらに上向きにさせると、今まで見せたことのない微笑みを浮かべて――。

「そういう葉月桃花に、いちばん、心を奪われたんだから」

今まで自分を優先してきて、他人をあまり顧みなかったかもしれない。
そういう部分で折りの合わない恋人もいた。

それでも、桃花は懲りずに我が道を進んでいた。
それ以上のものに出会ったことがなかったし、頭を悩ますほど比べるような事柄にも遭遇しなかったから。

けれど、どこかで引っ掛かっていたのかもしれない。
自己主義が強すぎて、人としてなにか欠けているのではないか、と。

だからこそ、今久志が認めてくれたことが衝撃で。
同時に、うれしくて、うれしくて、信じられない思いになる。

「私もですっ……」
「え?」
「そういう、相手(ひと)を優先して考えられるところが、すごいと思ってます」

目の際に涙を挟めて、思いの丈を伝える。
届きそうもなかった久志が手を伸ばせば届くところにいる。

桃花は感極まって、思わず勝手に体が動いた。
両手を伸ばし、久志の首にしがみつくようにして距離を縮める。

不意打ちの行動に、久志もバランスを崩して前へとよろけた。
桃花の背中が塀に激突しないように、咄嗟に久志は大きな手を背中に回す。
衝突は回避できたが、さらに密着した状態なってしまったことで、久志の頭は軽く混乱し始める。
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