世界でいちばん、大キライ。
久志の厚意に甘えて、最寄りの駅まで送ってもらうことになった。
道中、弾むような会話もなく、しんとした夜道をふたりの足音だけが響く。

別に気まずいわけでもないが、なんとなくこの空気を打開するべく、桃花が頭を回転させて話題を振った。

「そう言えば、久志さんて英語聞き取れるようになったんですか? さっきジョシュアさんの言葉に普通に返してましたよね?」

質問を投げかけられた久志はぴたりと足を止め、片手で顔を覆う。
無言の久志をぽかんと見上げて待つと、節ばった指の隙間からちらっと黒目を向けられた。

「いや、正確に聞き取ったわけじゃない。なんとなく……こんなこと言ってんだろうな、って」

薄らと頬を赤くして言っているのは、あの一連の流れが自分らしからぬ〝クサイ〟ことをしたのを思い出したからだろう。
そんな久志の気持ちに気付く前に、桃花は『なんとなく』でもヒアリング出来ていた久志に首を捻る。

「……オレ、前も言ったけど英文はわかるんだよ。でも、耳はほとんどダメ。だから仕事でもその辺うまく逃げてやってたんだけど」
「え? 前も少し聞きましたけど、久志さんのお仕事って英語とか関係ある……?」
「あー、うまく説明できないけど、なんつーの? システムエンジニアリングみたいなモンで。取引先は海外が半分は閉めてるし、あっちに支社あるし」

徐々にいつものように淡々と言葉を繋げ、再び足を前に踏み出し始める。
少し先に行ってしまった久志の背中に、桃花は追いかけながら声を掛けた。

「じゃ、じゃあ、麻美ちゃんの英語、久志さんでよかったんじゃ」
「今言っただろ。オレ、ヒアリングはダメだって。イコール話すのも苦手だ」

足を止めずに桃花に答えると、遠くを見つめながら小さく笑った。

「オレより適役だよ。……だから、向こうに行っても、あんたなら大丈夫だと思う」

褒められているのはわかる。
しかし、『向こう』の話には、やはりまだ桃花も普通に聞くことは出来なくて、返答にも戸惑ってしまう。
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