世界でいちばん、大キライ。
つい先程、『聞きたい』と思っていた声で話しかけ、歩み寄ってくる黒いジャケットの久志の姿。
信じがたい出来事だが、近づいてくる姿も声もどれもリアルで夢になんか到底思えない。
自分の思いが余程強すぎて、こんなにも鮮明な幻影を作り出したのかと思ったほどに。

「ほ、本……物……?」
「なに? 半年も年食えば見てくれも変わってるか? 体型は維持してると思うんだけど」

渇いた声で辛うじて言えた桃花の言葉に、苦笑しながら返される内容は、紛れもなく久志本人だ。

未だに状況が飲み込めない桃花にさらに歩を進め、目の前までやってくるとぴたりと足を止める。
そして、まじまじと桃花を見下ろすと、ふ、と笑った。

「そっちは変わってないな。……ああ、でもやっぱ少し変わったかな」
「――久志さんっ……!」

押し倒す勢いで抱き着いた桃花に一瞬目を大きくした久志は、そっと桃花の背に手を回す。
とんとん、と優しく背中を叩く久志の手に、桃花は少しだけ冷静になった。

「なんで……?」
「んー。なんでって……『会いに行く』って約束してたし」
「だからって! どうして事前になにも教えてくれないんですか!」
「いや、麻美が」
「麻美ちゃん……?」

眉を寄せて聞き返すと、久志はポリポリと頭を掻きながら宙を見る。
そして、言いづらそうに説明した。

「あいつが『黙って行って驚かせろ』ってうるさくて。勝手にあの店の店長頼って裏で動いて。まぁ、あとはオレ自身もちょっと忙しかったから」

(もう、麻美ちゃんたら……! この前の手紙にはそんなことひとことも書いてなかったのに! 初めはクールな女の子かと思ってたけど、本当は違うんだから!)

麻美の出過ぎたお節介を聞いた桃花は、嫌な気持ちにはならないが、ただなんだか恥ずかしい思いがして。
なんだか久志をまともに見られなくて、思わず俯いてしまう。

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