世界でいちばん、大キライ。


約束の日。
桃花は15分早くコンビニに到着し、店内を一周したあとに雑誌コーナーの前に立っていた。

適当に雑誌を選び、視線を落とすが、ただパラパラと捲るだけ。内容は一切頭になんか入ってはいなく、落ち着いた表情とは裏腹にかなりの緊張を桃花はしていた。

こんなふうに強引に男の人を誘ったのは、実は初めて。
電話しているときも、手も声も震えてしまいそうなのを堪えて普通に振る舞った。
勢いでこんな約束を突きつけたことに、自分自身でも今日まで信じられない気持ちでいた桃花。

けれど、もしも本当に来てくれたなら、と淡い期待を抱いているのもまた事実。

桃花がこんなことを口走ったのは咄嗟の偶然ではあるが、でも桃花の中で〝プライベートで久志にもう一度会いたい〟という思いがあった。もしかしたらその深層心理が働いて、あんな無茶な誘いをしたのかもしれない、と雑誌を見つめて思う。

(でも! でも、それだけじゃなくて、麻美ちゃんのこと。私なりに感じたことを伝えて、それで彼が少し気が楽になればいいなっていうのもあるし!)

久志が来たときに、『何の用だ』と言われたら……。
それに対応する正当な理由もきちんと用意しておこうと、桃花は今日まで必死に気持ちを整理してまとめてきていたのだ。

(まぁでも、ちょっと強引な理由だし、上手く説明できる自信なんかないけど……)

いまさらちょっと後悔しつつ、ちらりと店内の時計を見ると9時55分。
気を揉んでいても、結局彼が来なければなんの意味もないただの独りよがりな言い訳。

そして、まさにそうなるんだろうと、自嘲気味に鼻で笑った桃花が雑誌をパタンと閉じると、真横に人の気配を感じて凝視した。

「わっ……!」
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