世界でいちばん、大キライ。
「……麻美、ダチんとこ……泊まり」

さっきよりは幾分か話し方がまともになってきたことと、麻美についてもひとりきりでいるわけじゃないと知り、安堵する。

「そうですか」

ひとことそう桃花が答えると、あとはマンションに着く間、ふたりは終始無言のまま。
すぐに辿り着いたマンション先で桃花が久志の様子を見ると、まだ微妙にふらついている気がする。
心配な桃花は、そのまま久志の家まで支えながら送って行った。

「鍵。開けられますか?」
「……ん」

玄関前で聞くと、久志はノロノロとスーツのポケットからキーケースを取り出す。そして、自分で開けることをせず、まるで甘えるように桃花に託した。
それに驚いた桃花だが、肩に久志の手を置いたまま、前傾姿勢でキーケースを開いて解錠する。
ふたりはよろよろとした足取りで、どうにか玄関の中に入ることが出来た。

「久志さん。久志さん! おうち着きましたよ!」

桃花がはっきりとした声で呼びかけると、桃花の肩から腕を外し、ふらりと久志が靴を脱ぐ。
大丈夫だろうか、と心配そうな目で久志の動向を見守っていた矢先、久志はドン!と廊下の壁に肩をぶつけてふらついた。

「ちょっ……!」

反動で転んでしまいそうな久志を両手に受け止め、どうにかぎりぎり態勢を保たせる。
思わず靴を脱いで入ってしまった勢いで、桃花は再び久志の腕を肩に乗せて尋ねた。

「手伝いますから。リビングですか? お部屋ですか?」
「……部屋」

ぼそっと落ちてきたその答えに、桃花はほんの少しドキリとする。

(部屋、って。勝手に入ってもいいのかな……いや、もうこうなったら仕方ないよね)

自身に言って聞かせるようにして、桃花は久志の部屋へと足を向ける。
前回麻美に連れてこられた時に、帰り際に姿を現した久志から、彼の部屋であろう場所はわかっていた。
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