世界でいちばん、大キライ。
(ま、まさか、脱いだりしないよね……?)

静寂なこの環境のせいで、その一つ一つの音と動きに、桃花の心臓はいちいち大きな反応を示してしまう。
バクバクとなる心音が、久志に聞こえてしまうのではないか、と錯覚するほどだ。

桃花の心配はいらなかったようで、そのまま久志はだるそうに上半身を丸めてベッドに腰掛けるような態勢になった。

そんな久志を見下ろし、そっと桃花はグラスを差し出す。
大きな手が受け取ろうとした際に、久志は酔っていて気になんか留めていないかもしれないが、グラスと一緒に桃花の手にも触れた。

思わず手を離してしまいそうになるのを堪え、桃花はグラスを手渡し終えると、その手を引っ込め胸に当てた。
次第に大きくなる自分の鼓動と、ゴクゴクと久志の喉を流れる水の音。

目を見開いたまま久志の動きに意識を囚われていると、コン、と長い手を伸ばして空いたグラスを近くのデスクに置いた。
その音に弾かれたように直立姿勢になった桃花は、我に返ったように口を開く。

「っあ。わ、私、帰りますね」
「静かだ」
「えっ……」

ぽつりと即答された言葉に、思わず足を止めてしまう。
振り返ると、変わらずベッドの脇に腰を下ろし、少し項垂れているような格好の久志。さっきまで片言くらいの言葉しか発してない彼が、突然ぺらぺらと話し出す。

「子どもってのは残酷だな。つい最近まで必要としてくれてたのが、不要になったかと思うと……虚しいもんだ」

これだけ喋れるなら酔いが覚めてきたのかもしれない、と一瞬過るが、桃花の中での久志は自分の気持ちをこんなに流暢に話すだなんて印象はない。

(……ていうことは、逆にかなり酔ってるのかも)

桃花が黙って様子を窺っていると、やはり酒の力だろう。久志はさらに言葉を続けていった。
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