世界でいちばん、大キライ。
酒の影響も大きいのだろうが、桃花から与えられる感触は、簡単に理性を飛ばしてしまう。

何度か角度を変えて続けるキスから漏れる吐息だけが部屋に響く。
チュ、という音と共に離れた桃花が、ゆっくりと瞼を押し上げる。

「こういう〝男の人〟の表情が、いちばんスキ……です」

瞳の中の光をちらりと見せ、久志の目を見てそう言った。

素面であるはずの桃花が火をつけてしまったのだからどうしようもない。

久志は辛うじて繋ぎ止めていたものが、プツンと完全に切り離されてしまう。
それ以降はほとんど記憶にはない。

コーヒーの香りに混じるシャンプーの香り。
滑らかな肌の心地と柔らかな唇。
時折聞こえる嬌声と、「久志さん」と呼ばれる甘い声。

酒の勢いと言ってしまえばそれまでだが、決して誰でもよかったわけではない。むしろ、酒に力を借りて……。

そうして本音を曝け出したのちに感じるのは、心身ともに満たされるような温かな感覚。
それは桃花も同じで、流れは勢いにせよ、それは自身が求めているものだったから。

一度でも久志の方から求められるようなこがあっただけで、それだけでもいいとすら思うほど。

この一夜で、久志の気持ちを手に入れられただなんて思ってもいない。
けれど、ほんの少しは近づけたはず、と久志の頬に手を伸ばす。

しかし、身体の関係(それより)も――。

(本心に触れられた)

今まで立てられていた壁がなくなった、あの瞬間……。
久志が、本音を吐露して自分を抱き留めたことが、一番桃花の中でうれしい出来事だった。
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