世界でいちばん、大キライ。
「ごゆっくり、どうぞ……」

マニュアル用語をどこか棒読みで口にすると、ちらりと久志が視線を上げた気がした。
しかし桃花はその視線に応える勇気がなくて、くるりと踵を返す。

――なんでもいいから、気を紛らわせたい。

桃花は切にそう願っていたところに、先程出て行った了が戻ってきた。
その姿を見るなり、桃花は縋るような思いで入り口を見る。

「ただいま。ごめんね、店、大丈夫だった?」
「はい。本当に早かったですね? せっかく出勤してきたので、気にされなくてもよかったのに」

(……でも、正直、帰ってきてくれて救われる)

心細かったのが少し落ち着くと、桃花は懸命に笑顔を作って了にそう言った。

そもそも、桃花が休日であるはずの今日、この店に店員として立つことになった理由。
それは、店長である了から電話がきたのだ。

『ごめん。30分でもいいから、今すぐ店に来られる?』

了がそんなことを突然願い出るのは恐らく初めてのことで、桃花はそれほどの急用ができたのだ、と考える。
時間を確認すると、久志との約束から15分ほど過ぎた頃だった。

桃花はあたりを見回しても久志の姿が見受けられないことに区切りをつけるように、了に『すぐに向かいます』と返事をした。

本当にすぐに桃花が店に来た時には、さすがに了も驚いた。
目と鼻の先のコンビニにいたのだから、当然だ。
しかし、了はありがたいとばかりに、いそいそと店を抜け出したのがさっきの話。

桃花には、『昔からの友人が突然来訪し、近くまで来てて道がわからないらしいから』と説明して。

「うん。ありがとう。でも、だからって桃花ちゃんに甘えて店番押し付けるのもあれだし。それに……」
「Hi!ハジメマシテ!」
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