世界でいちばん、大キライ。
「いつも通りのことするだけ。でしょ?」
「……はい」
(確かにその通りなんだけど)

了の知り合いということは舌も肥えてて博識な想像がつく。
その相手に突然なんの心の準備もなくトスされると、いくらなんでもいつも通りというようにはいかない。
やはり、多少緊張が上乗せされてしまいそうだ。

「あの、ご注文は……?」
「Uh……オマカセで!」
「えぇっ」

困った視線を了に送ると、変わらず笑顔で返されるだけで。

桃花は気持ちを吹っ切って、グラインダーに手を掛けると、専用フィルターホルダーに細かく挽いたコーヒー豆を盛り入れる。
ホルダーを軽くたたくと、タンパーを手にして粉を均一にならすように手早くタンピングした。
それをエスプレッソマシンにしっかりとセットすると、真剣な眼差しをカップに注ぐ。

カウンター席に腰を下ろしたジョシュアは、その横顔を黙って静かに見つめる。
そんな視線すらも忘れるように、桃花は今目の前で抽出され始めたエスプレッソだけに集中する。

なみなみと溢れそうな、表面張力で盛り上がった水面には、先程と同じリーフが描かれていた。
出来上がりに、自身でなんとか及第点をつけられるようなラテアートのような気もするが、この状況下で精一杯入れたラテだ。

「どうぞ」

コトッと真っ白なカップを、綺麗な手で頬杖をついて待っていたジョシュアの前に差し出す。
すると、「ありがとう」と言って、彼はラテに視線を落とした。

桃花は、すぐに口を付けずにカフェラテを眺めるジョシュアの白いシャツ越しに、窓際の久志へと再び意識が向いてしまった。

逆光の中見える久志の横顔は、正面に座る女性を向いたまま。
特段笑って話をしてるような様子はないが、それでも、今見知らぬ女性となにを話ているのか。
桃花はジョシュアがラテを口に含んだことすら気づかないほど、頭の中は久志のことだけに染まっていってた。

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