世界でいちばん、大キライ。
「……いや、たまに」

週1で通っていることを、『たまに』という表現をするのは果たして普通だろうか。
そんなことを片隅で自分に指摘しながらも、現実にはそのように答えてしまったわけで。

(この感じは、なんだ……?)

ぞわりとする感覚は、目の前の相手に嘘を吐いたことへの罪悪感とはまた少し違う。

「そうなんですか」

当然、久志の答えに探りを入れるような返答もせず。
水野はベージュベースのネイルを施した細い指をカップの取っ手に絡めると、白い喉を上下させて桃花の淹れたラテを飲み干した。

すぐに久志もコーヒーを飲み終えると、どちらからともなく席を立つ。
先導するように先に店を出たのは久志。
取っ手に手を掛け、外に出るまで、桃花の方を振り返ることも出来なかった。

外の冷たい空気を吸い込んで、小さく息を吐く。
そこでようやく振り向くと、ちょっとの時差で水野がダークブラウンのドアを押し開けてきた。

改めて店先で視線を合わせると、久志が先に切り出す。

「あー。じゃあ、オレは帰って仕事でもすっか」
「え? いつも持ち帰ってるんですか?」
「ああ、いや。ごくたまに」
「……曽我部さん、いつも熱心ですよね。チーム引っ張ったり、新人の綾瀬くんの面倒みたり。部長が期待を寄せるの、派遣のわたしにでもわかります」

隣に並んだふたりは、ゆっくりと歩を進め始める。

「いや、期待なんて」
「曽我部さん」
「ん?」

一本目の交差点は、久志のマンションと水野の帰り道の分岐点。
そこに辿り着いてひとたび足を止めた水野は久志にくるりと向き合った。

「バツがついたわたしはやっぱり対象外でしょうか……?」

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