世界でいちばん、大キライ。


ソッジョルノでは、最後の客であった久志と水野がいなくなって、ガランとした雰囲気だ。
提供したラテを「安定してるね」と、目で見て褒めたジョシュアに頬を染めて恐縮しつつ、トレーの上に片付け(バッシング)用意をする。

久志の動向を視界の隅に入れていた桃花は、ふたりがいなくなって行ったのも瞳に映っていた。
何かを手にしていた久志から推測すると、何かを受け取るためだったのかもしれない。
そう解釈しながらも、心はちくちくと痛みが持続したまま。

ジョシュアに「少し失礼します」と断って、桃花はカウンター内から出た。

カウンターに沿って向かう先の客席。
ウッドテーブルの上にはカップがふたつ。

遠目から並んだ白いカップを見るだけで胸が軋むだなんてどうかしてる。
桃花はほんの少し顔を歪めて気を引き締めると、真正面にある格子の窓の向こうに久志と水野が並んで歩く姿が見えた。

落ち着いた雰囲気のオシャレな店内。
その窓越しに映ったのは、ちょっとした映画のワンシーンのような、大人の男女の穏やかそうな絵図。

これが久志ではなかったら、秋晴れの陽射しも手伝って輝くように見えたこの一瞬の場面を、ただ単純に温まる気持ちで眺めていただろう。

しかし、そのひとりが想いを馳せる相手なだけで、こうも感じ方が違ってしまう。

(……悔しいけど、お似合いだ)

カタッとテーブルの上にトレーを置いて、カチャカチャとカップを乗せる。
ひとつのカップに薄らと色づいた口紅の跡が、桃花の心をかき乱していく。

その邪念を払うように、桃花は緑色のダスターで、きゅ、とテーブルを綺麗に磨いていた。
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