薫子さんと主任の恋愛事情

「びっくりしすぎだろ」

八木沢主任の素早いツッコミ。

「……び、びっくりなんて、していません」

なんて言ってみても。自分でも驚くほど身体が大きく跳ねたから、かなり説得力にかける。普段通りに振る舞おうとしても動揺しまくりで、しどろもどろになってしまった。

目線をそらせば八木沢主任もおろか、柴田さんまで肩を震わせて笑っている姿が目に入る。

「おい幸樹。笑いすぎだ。西垣に謝れ」

そうだ、笑いすぎだ、柴田さん。私、あなたに笑われる筋合いありませんから。

と言うか、もっともらしく偉そうな態度を取ってますけど、元はといえば八木沢主任あなたが悪いんじゃありません? 謝るならあなたの方だと思うのは私だけでしょうか?

なんて、面と向かって言えるはずもなく。心の中で問うと、黙ったまま八木沢主任の手から颯のブロマイドを取り返そうとして失敗。

それもそのはず。八木沢主任の身長はゆうに一八〇を越えていて、手足も長い。少し腕を伸ばせば、しゃがみこんでいる私ではまったく手が届かない。もしお互い立っていたとしても、身長一五八の私が一八〇越えの主任に敵うはずないけれど。

「八木沢主任、それ返してもらえますか?」

睨みつけるように顔を見上げると、八木沢主任は甘いマスクでダメとでも言うように首を横に振る。

クールに整った顔に、サラッとした黒髪。一見冷たそうな印象も与えるけれど、実のところは明るくて正義感あふれる人気者。工場で働くおばちゃんたちのアイドルだったりする。



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