薫子さんと主任の恋愛事情
「え……大登、さん?」
でも今日は仕事だったはず。だから、こんなところにいるはずないじゃない。
そう思いたいのに、近づいてくるその人は間違いなく大登さんで。恐る恐る左側を見てみれば、出荷担当主任の坂下さんがいた。
なんだかあのふたり怪しいのよね──
工場棟の小宮さんが言ってたことは、本当だったってこと?
以前会社で噂になったふたりの話に、私が目撃したふたりで隠れるように話していたこと。これで全部、辻褄が合う。
大登さんと坂下さんは、私と付き合う前から関係があったのか。それとも坂下さんが離婚して、相談を受けているうちに今の関係になったのか。
今はそんなのどっちでもいいことなのに、人は驚きすぎると意外と冷静になるものみたいで。まるで他人事のように、客観視している自分がいた。
「幸四郎、ごめん。お昼はまた今度ってことで」
幸四郎の顔も見ずにそう言うと、腕を掴んで歩き出す。
「ちょっと、おい。薫子、どうしたんだよ?」
今の今までにこやかに話していた相手に、いきなり引っ張られた幸四郎が驚くのも無理はない。そうわかっているけれど足を止められない私が、それでも状況を説明せず進んでいると、幸四郎が大声を上げた。