薫子さんと主任の恋愛事情
「薫子、いい加減にしろよ!」
幸四郎のその声に、辺りが一瞬静かになる。
足を止めた私たちに辺りにいた人の全視線が注がれて、その中に大登さんの視線もあることに気がついた。
マズい……そう思った時にはもうすでに手遅れで。
「薫子?」
耳に届いたのは、大好きな大登さんの声。でもその声に振り向かず知らんふりをすると、幸四郎の手を引いてその場からおもいっきり走りだした。
「マジで、どうしたんだよ?」
お昼ごはんは食べそこね意味もわからず走らされている幸四郎が、勘弁してくれと言わんばかりに情けない声を出す。
「……いたの」
「はぁ? 誰が?」
「彼……」
走りながら話す言葉はとぎれとぎれで、全力疾走で息が苦しくなってきた私は、立体駐車場に上がる階段の前で足を止めた。
「ごめん……幸四郎」
大きく息をつくと、幸四郎を振り返る。