薫子さんと主任の恋愛事情

「薫子、いい加減にしろよ!」

幸四郎のその声に、辺りが一瞬静かになる。

足を止めた私たちに辺りにいた人の全視線が注がれて、その中に大登さんの視線もあることに気がついた。

マズい……そう思った時にはもうすでに手遅れで。

「薫子?」

耳に届いたのは、大好きな大登さんの声。でもその声に振り向かず知らんふりをすると、幸四郎の手を引いてその場からおもいっきり走りだした。

「マジで、どうしたんだよ?」

お昼ごはんは食べそこね意味もわからず走らされている幸四郎が、勘弁してくれと言わんばかりに情けない声を出す。

「……いたの」

「はぁ? 誰が?」

「彼……」

走りながら話す言葉はとぎれとぎれで、全力疾走で息が苦しくなってきた私は、立体駐車場に上がる階段の前で足を止めた。

「ごめん……幸四郎」

大きく息をつくと、幸四郎を振り返る。



< 167 / 214 >

この作品をシェア

pagetop