薫子さんと主任の恋愛事情
「いや、俺はいいけど。でもなんで、彼氏がいたくらいで逃げ出すようなことするんだよ」
「それは……」
一緒に女の人がいたから。それは同じ会社の人で、彼が私とその女性を二股に掛けているかもしれないから。
そう話してしまえば簡単なことだけど、私の中にも疑問符がいっぱいで。まだ大登さんを信じたいという気持ちがあるから、いい加減なことは言えないというか……。
「どうしたらいいの……」
その場にしゃがみ込むと、遠くから誰から走ってくる足音が聞こえてきた。
「薫子!」
その声に顔を上げると大登さんがすごい形相で走ってきていて、慌てて立ち上がると幸四郎に構わず階段を駆け上がる。
でももともと運動神経がない私の体力なんてしれていて、四階まで登った辺りでスピードが落ちると大登さんの手に呆気無く捕まってしまった。
「逃げ……るな……」
大登さんも猛ダッシュで走ってきたのか息は切れ切れで、苦しそうに項垂れる。でも私の腕を掴んでいる手は痛いくらいの強さで、絶対に離さないと言っているようだった。
それでも坂下さんと一緒のところを見てしまった私は素直になることができなくて、その手を振り払おうと腕を大きく振った。