薫子さんと主任の恋愛事情

「なあ薫子。ここで暮らさないか?」

「暮らす?」

それって一体、どういう意味での暮らすなんだろう。

衣食住を共にするというのなら、その先に自ずと出てくるのは……。

結婚!?

大登さんの口から直接その言葉を聞いたわけでもないのに、ひとり動揺してしまう。でもプロポーズにしては少々味気ないものだと、贅沢な気持ちが顔を出す。

「大登さん、それってまさか……」

私の真に迫った態度に、大登さんが少しだけ怯む。

「同棲ってやつだけど、やっぱりマズいか?」

「……同棲」

緊張の糸が、ぷつんと切れた。

そうだよね。よく考えてみれば、プロポーズだったら“暮らす”なんて言うわけない。私の早とちりだ。
あははっと作り笑いをして見せる。

「もしかして、プロポーズだと思ったとか?」

安易に心を読まれてしまい、首を横に向けると頭を一度縦に振った。



< 195 / 214 >

この作品をシェア

pagetop