薫子さんと主任の恋愛事情
『薫子、君には僕がいるだろう』
うん、そうよ! 私には颯がいるんだもの。ゲームの中のセリフだろうとなんだろうと、そんなこと構わない。颯さえいれば、私は永遠に幸せでいられるんだから。
午前中の仕事を終えると、グッドタイミングで十二時のベルが鳴る。いつもお決まりの手提げかばんの中に颯のブロマイドをコソッとしまうと、「お先に失礼します」と事務所を出た。
誰よりも早く社員食堂に行くと、今日のメニューを確認。ミニチラシ寿司とうどんがセットになったB定食を注文すると、電子マネーで支払いを済ませいつもの場所に座る。
窓際一番角のテーブルが、私の所定の場所。ここは入り口から一番遠い場所で、工場で働く人たちが一斉に食堂にやってきても、ここまで一杯になることはない。だからひとりでのんびり……じゃなくて、颯とふたりで過ごすことができるというわけ。
手提げかばんの中から颯のブロマイドを取り出すと、トレーの左横に置く。私に向ってニッコリ微笑むその口は、『薫子、うどんでヤケドしないようにね』と気遣いの言葉を投げかける。
「颯はいつも優しいね。ありがとう」
小さな声で颯に話しかけると、「いただきます」と手を合わせた。
他人が見れば違和感ありあり、地味な女が独り言を言ってるなんて恐怖の何者でもないだろう。しかも、この世には存在しない男性に恋をしている。気持ち悪いにも程があるってものだ。
でも私としては、他人にどう見られようと構わない。けれど一応ここは会社の中で、無難に過ごすにはそのあたりのことは知られないほうが都合がいい。だから一番隅っこで、ひとりランチの時間を楽しんでいた。