LB4




この日の夜。

「えーっ! 板東さんでも、そんなことあるんですかぁ?」

昨夜の台風の話題になったことから発展して彼女の話をすると、大学のサークルのふたつ後輩である千佳(ちか)が大きな声を上げた。

騒がしい居酒屋だが、周囲の目が少しの間俺たちの方に向いた。

「千佳ちゃん。静かにね」

「だってぇ」

千佳は新入社員らしく初々しい夏の装いで、セミロングの髪はハーフアップに結ってある。

「媚び」を極めている彼女は相澤さんとは正反対の女だが、学生時代から俺を好いているらしい。

俺はずっとその気がないことをアピールし続けているが、なかなかめげてくれない。

めげるどころか何かにつけて構ってくるもんだから、好意を無下にできないのもあって、今でもこうして呼び出されたりする。

といってもこうして二人で会うことは稀で、今回に関しては本来昨夜3人で会う予定だったのが今日に延期になり、もう一人のメンツである大悟(だいご)という青年の都合が付かなくなったというだけだ。

「はぁ。でもショックです。これでますます私にはチャンスがなくなったわけですよね」

「まぁ、そうなるね」

「私ずっと、板東さんが自分から女の人に手を出すことはないと思ってたから、片想いしてるって聞いて安心してたのに」

「なんだそりゃ」

俺が積極的になるのは、そんなに意外なのか。

俺だって、やるときはやるさ。

相澤さんもそうだったけれど、女はなぜか俺をクリーンな男だと思うらしい。

性欲すらない、ミントのように爽やかな男だと。

「だって板東さん、学生時代に恋愛してるときもひたすら受け身って感じだったじゃないですか。自分から女の人に迫るなんて想像できないなー」

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