愛なんてない
京の表情は落ち着いていた。
冷静であるのだと察せる虹彩に目つき。
でも……。
京の右足が踏み出された。
わたしは半ば本能的に後ずさる。
京が一歩足を進めるごとに、わたしは後ろへ下がっていった。
教職員や生徒は居るはずなのに、周りは不思議なほどに人の姿がない。
まるでわたしと京のために用意された舞台のようだ。
でも、ここは玄関である昇降口そばにある桜の木。いつ生徒や先生が来るかもわからない。
どうして2人きりなのに、京はわたしに近づくの?