これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 私はゆっくりとベッドから出ると、シーツを身に着けたままバスルームへと向かった。

 寝室を出ると私が出てくるのを待ちわびていたのか、クロが走って私の元に来た。

「今からお風呂入るの。お前も来る?」

 クロに言葉が理解できるとは思わないが、何かを察したのか、すぐにキッチンへと駆けていった。

 この間雨に濡れた後、体を洗ってあげた。あのとき本当に水に濡れるのが嫌そうにしていたので、きっと逃げ出したのだ。

 バスルームを使わせてもらうのは二度目だ。シャンプーもボディーソープも彼が使っているものを使う。

「これ、いつもの勇矢さんの香りがする」

 泡立てたスポンジで体をゆっくりと洗っていく。自分の胸元のふくらみに赤い“愛された”跡を見つけて、指でなぞってみた。

 あれが愛されるということだ。彼と一緒にいるだけでも楽しくて嬉しくて、幸せだった。でも昨日ひとつになったことで、より彼を近くに感じることができた。

 正直怖かった。自分のすべてを相手に預けるということがどういうことなのか、わからなかったから。
 
 でも今となっては、恋人同士がお互いを求めあう理由がわかった気がする。

 それはとても幸せで、お互いを満たす大切な行為なのだ。

 人を愛すること、愛されることを知ってしまった私は、元の私に戻れるのだろうか。

 幸せな感情に自分で水をさす。

 私は、頭をぶんぶんと振って脳内に浮かんできたものを掻き消した。髪についていた水滴がバスルームに飛び散った。

 彼と愛し合えたことだけでも、幸せだと思わなきゃ。それ以上求めるなんて、私には贅沢だ。

 シャワーのコックをひねり、あたたかいお湯を頭から浴びる。

 何も考えないで、今は……今だけは笑顔のままで、私のままで……。

 私は自分に言い聞かせるようにバスルームから出るまで心の中で唱え続けた。
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