これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「これ以上は何も言わなくていい。もうすぐ本来いるべき場所に帰るんだろう? 当初の予定どおりに」

「どうしてそれを?」

 この話を知っているのはごくわずかの人物だ。いったい誰から話を聞いたのだろうか?

「話の出所は、この際どこでもいいんだ。キミのお遊びも思い出作りも、これでおしまいだ。お元気で」

 そう言うと、さっと踵を返して公園の出口に向かって歩き始めた。

 追いかけるべきだ。そして彼の背中に飛びついて泣いてすがればいい。自分の思いをぶつけて彼に理解を求めればいい。

 もう一度彼のあったかくて安心できる胸に抱かれたい。

 ……でもすべて叶わないことだ。

 だって“本当の”私の人生は私だけのものじゃないんだから。

 ハラハラと頬を伝う涙が顎をつたって足元に落ちた。耐えきれなくなって、両手で顔を覆いその場に座りこんだ。

 声を上げて泣くこともできない。昔からの癖で、誰にも心配かけないように声を押し殺して泣くのは得意だった。

 しゃくりあげ止まらない涙を何度もぬぐう。

 胸が張り裂けるような痛み。思い浮かぶのは、笑顔の勇矢さんと去り際にみた傷ついた顔が交互に浮かんできた。

 日の落ちた公園。街灯だけが涙に滲んだ瞳に映った。
 
 彼の姿はもうそこにはなかった。
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