これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「いいえ、女性は準備に時間がかかるものですから。その辺りは私も心得ています」

 小関さんが私を庇ってくれた。私は会釈をして母の横に座る。

 父と小関代議士のお父様が、ゴルフの話をしている。そんななか私はずっと正座している自分の膝を見つめていた。

「お待たせしてすみません」

 兄が電話を終えて戻ってきた。

「大輝さん。恵の大事な席に遅れてくるとは何事ですか」

 母親の説教が始まる。しかし大輝はそれをうまくかわして場を和ませた。

「母さん、そんなに怒るとせっかくの美貌が台無しですよ。娘の大事な席にそんな顔してないで。さぁ、料理を運んでもらいましょう」

 全員揃ったところで、食事が始まる。

 お見合いと銘打ってはいるが、ここで初対面であるのは恵だけだ。結局はすでに顔合わせの意味をもっている食事会だ。

 少しのお酒が入った面々は饒舌に語り始めていた。私は興味のない話ばかりだったが、失礼のないようにあいずちを打ちながら笑顔を浮かべていた。

「恵さんも一杯どうですか?」

「あの、あまり得意ではないので結構です」

「そうですか、残念ですね」

 断って雰囲気が悪くなったらどうしようかと思ったけれど、そういったことはなくニコリとほほ笑んでくれた。

 未来の旦那様になる人とかわした初めての会話だ。しかしそこに何の感情もわかない。

 大丈夫。きっともっと長い時間を共に過ごせば、お互いのことを大切に思えるようになるはず。家族として愛していけるはず。そう私は自分に言い聞かせた。
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