これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
……ガリっガリっ

「ん……」

 遠くから何かが削られるような音がする。でも瞼がなかなか開いてくれない。

「はぁ……仕方ない」

 ベッドの軋む音と、私を包んでいた温かいものが離れていって、やっと目が覚めた。

 うっすらと開いた目から見えたのは、勇矢さんが寝室のドアの鍵を開ける姿。

 次の瞬間“ガコン”と音がすると、クロが飛び込んできた。そしてまっすぐに私に走ってきた。

「え……わっ!」

 スタンとベッドに降り立つと私のところへきて頬ずりをしてきた。

 そんな様子を見た勇矢さんは、少し呆れたような顔をしている。

「くすぐったい。クロ……お前、扉を開けられるなんて賢くなったね。名前を呼んでもまだ返事もしてくれないのに」

 最初、名前を付けたときは「ミャー」と返事をしてくれていたのに、それ以降はまったくだ。

 ちょっと寂しいな……なんて思ってしまう。

 そんな私たちの様子を見ている勇矢さんの様子が、ちょっとおかしい。

 どこか落着きがないような、目が泳いでいるような。

「どうかしましたか……?」

 ベッドに腰を下ろした勇矢さんが、少し考えた後観念したように話を始めた。

「その猫“クロ”って名前じゃないんだ……」

「えっ!? だって、あのとき私が付けたじゃないですか? じゃあ本当の名前は?」

 私の問いかけに、気まずそうな表情を見せている。

 猫の名前を聞いただけなのに……どうして?

 そして諦めた様子でポソリと呟いた。
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