スイートな御曹司と愛されルームシェア
「大丈夫ですか?」

 男が気遣うように手を差し出した。それを払いのけて立ち上がり、咲良は険しい口調で言う。

「ちょっとあなたは黙ってて。昨日何があったのか、今、思い出そうとしてるんだから」

 そうして牽制するように、男との間に距離を開ける。咲良のその態度に驚いたように彼は瞬きを繰り返したが、やがて両手を軽く広げて言った。

「いいですよ、ごゆっくり。その間、俺は朝食の用意でもしています。キッチン借りますよ」
「え、ちょっと待ってよ」
「心配しないでください。こう見えても人並みには料理できますから。咲良さんはゆっくり思い出してくださいね」
「や、そうじゃなくて」
「大丈夫です、ちゃんと食べられるものを作りますから」
「えと、あの」
「咲良さんは朝は和食派ですか、洋食派ですか?」
「よ、洋食……」
「じゃ、腕を振るいますから、楽しみに待っていてくださいね」
「あ、はぁ、どうも」

 男のにっこり笑顔に咲良の口から出たのは間抜けな返事。完全に男のペースにはまってしまった気がする。それでも、考える時間ができたのはありがたい。
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