スイートな御曹司と愛されルームシェア
「いや、それより、待ってくれ。咲良さんは辞める必要はないって言ったじゃないか」

 恭平の言葉に、咲良は首を振る。

「教える講座がないのに残れない。何もしないのにお給料は受け取れない。それに、何よりこれは私の意地なの」
「意地?」

 果穂と恭平が同時に言った。心置きなく退職するには、この二人に理解してもらう必要があるようだ。そう思って咲良は正直に話すことにした。

「恭平くんと朝倉さんが結婚するって話を私にしてくれた日のこと、覚えてる?」
「ああ。あの日、咲良さんは料理を食べずに先に帰ったよね?」

 それは恭平のことが好きだったからだ。それは言わなくても今なら彼にはわかるだろう。

 咲良は話を続ける。

「その後、ある人に出会ったんだけどね……」

 その人が楢木翔太という名前で、彼がTDホールディングスの副社長に咲良の留任を掛け合ってくれたことだけをかいつまんで説明した。株式をめぐるTDホールディングスや英進会の陰謀のことには触れなかった。

「咲良さんが辞めたら、彼の好意を無駄にすることになるんじゃないかな?」

 恭平の言葉に咲良は首を振る。

「私、彼を縛りたくないの。私のせいで彼がお兄さんに借りを作ったことになるのは嫌だから」
「なるほど。だから自分が辞めて彼の借りをなかったことにしようというわけか」
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