スイートな御曹司と愛されルームシェア
 意地になって余計なことを書いちゃったかな、と咲良は苦笑しながら、冷凍庫から四角いタッパーを取り出した。優弥が〝お母さんがよく作ってくれる〟と話してくれた、輪切りレモンの蜂蜜漬けを、昨日作っておいたのだ。それを保冷剤とともに保冷バッグに入れて、ボディバッグを背負って家を出た。

 市民グラウンドである東グラウンドまで自転車で行き、駐輪場に止めてグラウンドに向かった。ちょうど試合が始まったところらしく、並んで向かい合っていた二チームが、お辞儀をして散らばっていく。赤いユニフォームの方に優弥がいるので、そちらが大阪フェニックス、紺色のユニフォームの方が対戦相手の山田中(やまだなか)タイガースのようだ。

 一塁側にある観客用ベンチの端っこに腰を下ろし、咲良も応援の保護者らが声援を送るのに混じって、大阪フェニックスを応援する。

 優弥はレギュラーではないらしく、控えのベンチから声を張り上げてチームを応援していた。だが、九対四で相手に五点のリードを許したまま九回表を迎えると、コーチ陣が下級生にも経験を積ませようと考えたのか、ライトの上級生を優弥と交代させた。

 優弥が緊張した面持ちでポジションに着き、咲良は両手をメガホンのように口に当てて声を張り上げた。

「優弥くん、がんばって!」

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