スイートな御曹司と愛されルームシェア
 咲良は膝を胸に引き寄せたまま、男の顔とスマホを交互に眺めた。何度目かに男の顔を見たとき、彼がチラリと視線をスマホに落とした。咲良は男をひたと見据えたまま、ゆっくり手を伸ばす。そしてスマホをつかんだ瞬間、脱兎のごとくキッチンに走った。

「ごめん、お母さん、何でもないからっ」
『えっ、だって、あんた大声上げてたでしょ?』
「あ、うん、ベッドから落ちちゃって」
『誰かいるの? 男の人の声が聞こえたような気がしたけど』
「い、いるわけないじゃない! 気のせいよ、気のせい。そ、そう、あれはテレビ。今取り込み中なのっ。だから、また後でかけ直すからっ!」

 それだけ言うと、咲良は無理矢理通話を終了した。スマホを握りしめたまま、キッチンと部屋とを隔てるドアの陰からおそるおそる部屋を覗き込んだ。メガネをかけていないのではっきりとはわからないが、ベッドの上であぐらを搔いていた男と目が合った気がして、咲良は反射的にドアの陰に隠れた。

(だ、だ、誰? なんで見知らぬ男が私の部屋にいるの?)

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