スイートな御曹司と愛されルームシェア
「すぐに振られたわ。彼が読んだ翻訳ミステリの原書を、私が読んで語ったら、嫌がられちゃった。そりゃそうよね。私は良かれと思ってやったんだけど、彼にすれば知識をひけらかしているみたいで鬱陶しかったと思う。でも、勉強はすればするだけ身につくし、知識になる。努力は裏切らない」
「努力は裏切らない……」

 翔太が咲良の言葉を繰り返した。

「キレイ事に聞こえるかもしれないけど、私はそう信じてる。たとえいい結果にならなくても、何かの形で実になると思うから」
「そうですね、勇気の出る言葉ですね」

 翔太のしみじみとした口調に、咲良は照れ笑いを浮かべる。

「そう言ってもらえると嬉しいけど」
「それで咲良さんは、勉強する楽しさを伝えたいから、講師になったんですか?」
「そんなところかな」
「学校の教師ではなく予備校の講師になったのはどうしてです?」

 翔太の質問に、咲良は小さく息を吐いて答える。

「大学受験のときに通った予備校に、すごくステキな先生がいたのよ」
「男の先生?」
「ううん、女の先生。紺色のスーツがビシッと決まっていて、すごく凛々しかった。でも、ステキなのは外見だけじゃなかったの」
「講義も良かったってこと?」
「そう。わりと脱線することが多かったんだけど、そうして教えてもらった雑学がすごく記憶に残るのよね。それとともに、その雑学に関連する出来事も鮮明に覚えていて。英単語は辞書の一番上にある意味だけを知っていてもダメなんだってことを気づかせてもらえた。それに何よりすごくおもしろかった」
「なるほど。それで、その講師に憧れて予備校に就職したんですね」
「そう。でも、その先生を追いかけて就職したのに、先生はすぐに退職しちゃった」
「残念ですね。ほかの予備校に移ったんですか?」
「ううん。同じ予備校の講師と結婚して、だんなさんの地元で一緒に塾を創ることにしたんだって」
「どこかで聞いた話ですね」

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