スイートな御曹司と愛されルームシェア
 咲良の言葉を聞いて、恭平が両手で顔を覆った。さっきまでの冷静さが嘘のように、震える声で答える。

「果穂のご両親に、彼女を妊娠させたことを責められた。大切な一人娘との結婚を認めるには、それなりの誠意を見せてもらう必要がある、と言われたんだ……」
「誠意ってお金?」
「僕も最初はそうだと思ったんだ。金で話がつくなら、その方が楽だったかもしれない。少しずつでも働いて返していけるから」

 恭平の苦しそうな言葉に、紗穂はゴクリと喉を鳴らす。

「お金じゃないなら……この塾ってこと?」

 恭平が無言でうなずいた。怒りのあまり、咲良の声が跳ね上がる。

「そんなの横暴よ! そんな一方的で勝手な要求を呑むなんて、あなたどうかしてる! 私のことはどうでもいいわけ? 今までずっと一緒にやってきたのに! あなたとこの塾を立ち上げるために、私がどれだけの犠牲を払ったと思ってるのよ!」

 それは金銭的なものだけではない。予備校を退職して、疎遠になった友人もいるし、両親とも一時的に気まずくなった。両親や親戚に借金をしなかったこと、塾が軌道に乗り始めたことを認めてくれて両親と仲直りしたのは、一年半ほど前のことだ。

 咲良の剣幕に、恭平は今まで見たことがないほど暗い表情でうなだれた。その姿はとても小さく見える。
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