姫恋華〜ひめれんげ〜【改稿版】
「んぎゃ~、何だよ。この猫!」

 シャー!

 威嚇の声と共に鋭い爪が男の顔を引っ掻いた。

(うわっ。いったそ)

 そんな鈴を追いかけながら、久賀は冷や汗を流している。

(俺、風間の方に付いてて良かった)

 今更ながらにそう思った。

 猫の爪の餌食になるくらいなら、用心棒の賃金をふいにしてもいいとさえ思った。

(でも、これいつまで続けたらいいんだ)

 屋敷中、十分浮足立っている。

 目的は果たしたはずだ。

「いや~~~ん」

 またひとつ新たな悲鳴。

 およそ侍らしくない声を上げて額を押さえ蹲った男の横を通り過ぎながら、嬉々として爪を振り上げ続ける猫に生暖かい視線を向ける久賀だった。






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