ストーンメルテッド ~すべての真実~
 カゲンとイヴが部屋の中へ足を踏み入れた時、二匹の狼が腰を低くしながら、鋭い眼光で睨みつけてきた。《威嚇しているのかもしれない》とカゲンは思った。
 だが恐怖を感じる間もなく、二匹の狼はとぼとぼと歩く老人の足元へ歩んでいった。
 カゲンは、思わず安堵のため息をつく。
 二匹の狼は、老人の様子を見て、カゲンとイヴが敵でないことを察したのだ。
 部屋の中央にテーブルが置かれ、その右側には大きなソファーが置いてある。左側には、古い木で出来たゆり椅子があった。そこに老人がゆっくり座った。その瞬間、ゆり椅子からみしりと音が鳴る。
 二匹の狼は、老人が座ったことを確認すると、彼の足元で犬のように寝そべった。
 老人は、肘かけに肘を乗せ、頬杖をつきながら、
「そこのソファーに座りなさい」

 カゲンは言われるがまま、ソファーの中央にどっかりと座った。イヴは、そのカゲンの足元にゆっくり座り、テーブルの先で横たわる狼たちへ視線を向けた。狼たちはリラックスしてあくびまでしている体である。

「そのままでは、何も出来んじゃろう」

 老人の言語を聞いたカゲンは、訝しげに老人を見つめた。
 それを察した老人は、咳き込んで、

「いや、お前さんのことではない。お前さんには手も足もあるが、そちらの者はそうでないだろう」
 と、カゲンの右側でいつの間にか浮かんでいた白い光を指さした。
 カゲンは、老人の指さす方へ目をやるや、白い光に気がついて、片側の眉をあげた。
 ついで老人へ視線を戻し、 

「この光が、生きているとでもいうのか」

「いいや、生きておらんから身体が見えんのじゃ。だが、ある手をつかえば話はべつだ」

 そう言うと、老人はおもむろに立ち上がり、カゲンのいるソファーを横切っていった。
 同時に、二匹の狼も起き上がり、老人とともに歩んでいく。 
 カゲンは、老人が向かった背後をふりむいた。
 何年も放っておいた物置のなかのように、ごちゃごちゃと多彩な道具が散らかってる。カゲンには、どれもが銀色の金属製で出来ているように思えた。
 老人は、洗濯機ほどのサイズと形をした銀色の箱の前で足を止めるや、両開きの銀箱の戸を、皺だらけの手でこじ開けた。

「この箱の中へ入るとよい」

 老人は振り返ると、白い光の玉にそう言ってうながした。
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