ストーンメルテッド ~すべての真実~
 言われるがまま、たゆたう白光の玉は動き出し、素直に銀箱の中へ、するりと収まった。
 たった一つの眼で、それを確認した老人は、銀箱の戸をしずしずと閉めた。
 鈍いカゲンには、老人のその行為の意味がまったく理解できないようであった。
《なぜ、銀の箱のなかに光の玉をいれたんだろう?》と、彼は胸の中で言い、眉をひそめて銀箱を見つめ続けていた。
 と……銀箱がものすごい勢いで左右に揺れだした。まるで、地震でも起きたのではないかと思うほどに。
 銀箱が揺れた拍子に、ぱっと箱の扉が開かれて、中から人の姿をゆうする者が転がりでた。白光の玉はなんと、少年の姿へと変貌し現れたのである。
 が、少年はさも痛々しそうに唸り声を上げながら立ち上がろうするので、愕然したのも束の間、カゲンは即座に異体のしれぬ少年を助け起こしてあげるのだった。

「驚いたな」と少年に肩を貸しながら、カゲンが言った。「おまえ、人間の香りがするぞ」

「醤油を獣に垂らしたような独特な香りだから、間違いない。人間だ」

 答えたのは、そばに駆け寄ってきたイヴだった。

「一体どういう事だ」

 カゲンは、かなり窶れた細い少年がソファーに座ることに手を貸してやりながら言う。

「人間の魂が神界にあるなんて話はおとぎ話や歴史や伝説にも聞いたことがない……。きみ、説明できる? 名前は?」

 ソファーに座った少年と同時に、そこから対面に有するゆり椅子へ、眇の老人も腰掛けたところだった。

「……翔っていうんだ」

 驚いた顔で見つめてくる赤毛の青年に、若干怯えたような様子で、少年は答えた。

「その名前には、聞き覚えがある。ひょっとして、ジュノの知り合いじゃないよな」

 興味津々に尋ねてくるカゲンに、少年――翔は縦に頷いてみせた。

「ジュノは友達だ。だけど、僕が無力のせいで、助けられなかった……。ジュノが、誰かに襲われているのを、ただ見ているしか出来なかった。その後のことは、一気に力が抜けていったのだけは覚えてる……。それから、僕が真っ白な世界で目覚めたとき、声を聞いたんだ」

 老人オーディンは、しずかに言いはなった。

「翔や。お前さんが目覚めた場所とはおそらく、〈黄泉の国〉じゃろう。そこで、天の神の声を聞いたのだな?」

「やっぱり、あそこはあの世だったんだね……。何となく、そんな気がはしていた」

 翔の、まだ若い顔に、陰りが見えた。

「その声は、僕に、こう告げたんだ。
〝そなたが生前、悔いている事があったことは知っている。そなたには、まだやらねばならぬことが残っている〟と。
〝闇の女神ジュノのために、神界へ行きなさい。彼女はまだ、生死の狭間におり、捕らわれたままだ〟と」
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