佐藤くんは甘くない
「……あ」
声が、漏れた。あれ、なんだよ、これ。
───あの日、あの時の視界が霞むほどに、白い霧のように降り注ぐ雨が、ぼんやりと浮かぶ。青色の大きめの傘。制服に雨の粒が滲む、不快感が、私の脳内に駆け巡る。
ちか、ちか、ちか。
早くなっていく点滅のリズム。
声が、震える。全身の血液が逆流していくような、一気に熱を奪われる。
そして、ひまりちゃんの背中が、私から遠ざかっていく。必死に、手を伸ばした。嫌だ、嫌だいやだいやだいやだ、いやだ、いやだいやだ。いやだ!もう、何も失いたくない。
ひまりちゃんの背中が、あの時と重なる。まるで、神様が仕組んだ再現シーンを見るように。
そして、やってくる。
あの、積み上げてきたものすべてを壊して、破壊してしまうような───残酷な、音。
───パアアアアアアアアアアアアアアアと、劈くような、クラクションの音が鼓膜の奥に響き渡る。嫌だいやだ、嫌だ、聞きたくない、もう、聞きたくない、でも、私は。
「───っっ、ひまりちゃんっっ!!」