佐藤くんは甘くない
私が、叫んだ、その瞬間───ふいに、視界の隅で黒いものがふっと動いた。
何が起こったのか、理解できなかった。
それは、スローモーションのようで、けれど、あまりにも一瞬に、唐突に終わる。
気付いたときには、黒い軽自動車が反対側の道路にあった。下を見ると、真っ黒に焼きついたタイヤの跡と、焦げるにおいがツンと鼻につく。
そして───、
「あ、……ぁ、あ」
ひまりちゃんと、佐藤くんが信号を渡る白線の内側に倒れ込んでいた。
まるで、ひまりちゃんをかばうような態勢で、佐藤くんが覆いかぶさっている。ひまりちゃんが、倒れこんだまま目を見開いて、震えていた。なのに、佐藤くんが動かない。
「さ、とうくん」
動かない。一ミリも、一センチも、動かない。
「───佐藤くん!!」
「おい、佐藤ッ!!」
もう、何が何だか分からなかった。何が起きたのか、どうしてこうなったのか、もう、何もかも、分からなかった。私は、ただひたすら佐藤くんの名前を叫んで、横たわる佐藤くんのもとへ走った。
隣で、瀬尾が、佐藤くんの名前を呼ぶたび、これが嘘じゃないんだって現実なんだって、理解してしまう。頭が、割れそうに痛かった。
嫌だ、もう、嫌だ。こんなの、もう、嫌だ、嫌だ、なんで。