佐藤くんは甘くない


はっと、我に返る。

真っ直ぐ私を見ていたはずの、佐藤くんの視線が私を通り越していることに気付いたから。


驚きの色を浮かべていた瞳が、だんだんと敵意を向けるような冷たいものに変わる。


そんな佐藤くんを見るのは、初めてだった。


「……何か、御用ですか」


私を出迎えたときとは明らかに違う、他人行儀で氷のように冷たくあしらった声。私は、ゆっくりと振り返る。



そこに立っていたのは、とても儚げな女性だった。気弱そうで、下げた眉は、佐藤くんの顔色を窺うかのようで。


ふわりと柔らかな茶色の髪が、白い顔に刻まれた皺を浮かせて、より一層疲れているように見えた。


佐藤くんは、私をその女性から遠ざけるかのように、前に出ると、


「叔父に御用なら、今は留守です。どうぞお帰りください」


え、と口から漏れそうになって私はあわてて顔を伏せた。


佐藤くんが、明らかにこの人と一緒にいたくないと言っているのが明白だった。薔薇の棘のように冷たく、耳が痛くなるような冷酷な口調。


その女の人は、しばらく、何も言わなかったけれど、


「……いえ……。今日は、那月くんに用があってきたの」


まるで、佐藤くんの気に障らないことだけを考えるみたいに、そういった。


< 264 / 776 >

この作品をシェア

pagetop