佐藤くんは甘くない


佐藤くんは、黙ったままだった。

そのちっぽけな彼の震える肩を見て、唇を噛みしめる。



これじゃあ、駄目なんだ。


これじゃあ、ちっとも佐藤くんは前に進めない。


佐藤くんはずっと、立ち止まったままだ。



私は、小さく息を吐いた。

そして、朝からずっとポケットにしまいこんでいたそれを、確認するように上から手を当てる。


これはきっと、佐藤くんの過去の楔だ。

渡せば、私は佐藤くんの過去を知らざる負えなくなる。それで、もし、佐藤くんが変わってしまったら。私という人間を佐藤くんは避けて、逃げていくのかもしれない。




……でも、それでも。


私は、逃げちゃいけないんだ。



佐藤くんを大切だと、友達だと思うのなら、ここは引いちゃいけない。


たとえこの先に、どんな結末が待っていても。


私は、すうっと、顔を上げた。さっきまで思い悩んでいたもやもやは、透き通るように綺麗に消えていた。

ポケットから取り出した手紙を、私は佐藤くんに差し出した。




「───渡すか、ずっと迷っていたんです。


 けど、やっぱり私が持っているべきではないから」




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