佐藤くんは甘くない
妹が、熱を出した。
それもいつもの微熱ではなく、尋常じゃないくらいに汗をかいていて、呼吸も苦しそうだった。
お母さんの顔からは、さっきまでの幸せな表情は消え失せていた。真っ青に青ざめて、今にも倒れそうなくらい。
その様子から余裕はなく、危険は刻一刻と迫っていた。
家には父もいない。
お母さんは、もう一歩も動けない妹を連れ出すわけにもいかない。
お医者さんを連れて、すぐ戻るから、柚月を見ていて。
何かあったら電話して。
受話器を僕に渡した。
生クリームを途中まで乗せたケーキも、妹と一緒に作った輪っかの飾りつけも、何もかも中途半端なまま、お母さんは家を飛び出して行った。
僕は、ぼうっとその薄暗い部屋を見回した。
そこにはさっきまでの優しい時間は消え失せて、あるのはぽっかり空いた焦燥感だけ。
誰が悪いわけでもない、だけれど小さな子供の自分にはこの気持ちのやり場さえ、分からなかった。