佐藤くんは甘くない
そして、ある朝。
遠くから物音がして、僕ははっと目を覚ました。冷たい朝の空気がやけに体に突き刺すように沁みてくる。
ゆっくり階段をおりて、顔を上げたとき───。
そこには、大きな手鞄と厚手のコートを着たやつれた顔のお母さんが、立っていた。
一瞬で、気付いた。
ああ、お母さんはここから出て行くんだと。柚月を殺してしまった僕なんて、いらないから捨ててしまうんだと。
それでも、僕は、聞いた。
いつ帰ってくるのと。
お母さんは悲しそうに笑みを浮かべて、誕生日に帰ってくるよと言った。
その答えに、いつの、とは聞かなかった、聞けなかった。
もうそれが、答えだったから。
お母さんは僕の体を抱きしめた。僕と同じくらい冷たい。手をいっぱい伸ばしても抱き留められない大きな背中は、小さく震えていた。